青山スタイル|連載コラム
「とみひろ」は、1578 年の創業以来433 年、1854 年の呉服商専業化以来157 年も続く呉服の老舗専門店です。「きものは日本が世界に誇る文化であり、後世に継承していかなければならない」と言うのは同社の冨田浩志社長。今回はとみひろを訪問し、老舗の矜持をお聞きしました。

冨田浩志社長
とみひろ代表取締役社長/冨田浩志氏
1954年山形県生まれ。1993年7月とみひろ関連4社社長に就任。
それに伴い、6代目伝兵衛の名を継承。初代六右衛門から数えて23代目に当たる。
織田信長の時代に創業

ー とみひろとはどういう会社ですか。

とみひろは、天正6年(1578 年)に 創業者・六右衛門が「冨士屋」と称して薬種業を営み、紅花や麻糸、米等の山形の特産品を京都・大阪へ運び、商いをしたのが始まりです。
そして、京都より呉服物を仕入れて、代々呉服商および年貢米にて酒造業を営んでいました。その後、安政元年(1854 年)に、18 代目当主・冨田伝兵衛が呉服に専業するため「冨士屋呉服店」を開業し、現在の呉服商とみひろの礎を築きました。

創業から400年以上も続いているとみひろの理念とは何ですか。

「日本文化の伝統美を創造し、その振興を通じて社会に貢献しよう」というのが社是です。弊社のマークは丸五(円の中に「五」の字)で、五縁を表しています。
五縁とは人の縁、地の縁、時の縁、縁を育てる育縁、縁を殖やす殖縁のこと。さまざまなご縁を大切にしながら、日本のきもの文化を広げていこうという想いを込めています。

ー どのような商品を扱っているのですか。

多くのお客さまに本物志向のきものを楽しんでいただけるよう、職人たちが一本一本丁寧に織り上げた旬のきものを、紬(つむぎ)の産地である地元・山形、そしてきものの本場・京都からお届けしています。きもの文化を伝承するだけではなく、ものづくりから販売まで一気通貫したSPA(製造小売業)として、常に事業革新を心掛けています。

ー その代表的な商品である「やまがた紬」にはどういう特徴がありますか。

やまがた紬最大の特徴は「草木染め」です。四季の変化に富む山形には、桜、梅、椿、藍、踊子草、クサギなどの草木から、紅花、ラ・フランス、さくらんぼ、リンゴなど、染めの原料となる素材が数多くあります。職人自らが熊鈴(熊除け)を鳴らしながら原料を直接採取し、糸を染め、一本一本丁寧に織り上げていきます。織物からは草木の香りがほんのり漂い、紬が持つ優しい風合いと相まって温もりのある逸品へと仕上がっていきます。

手染め、手織り、手縫いのこだわり

ー ものづくりはすべて手作業なのですか。

ええ、すべて手作業です。織物には、糸のうちから染色する「先染め」と、織り上げてから染色する「後染め」がありますが、とみひろのやまがた紬は、すべて先染めを採用しています。たて糸には本繭(まゆ)を紡いだ細く滑らかな絹糸、よこ糸には玉糸やくず繭を使用して紡いだ、太さに均一性のない独特な風合いを持つ紬糸を、草木の旬の時期に合わせてあらかじめ染色しておきます。

草木染めされた絹糸を一本一本紡いで織り上げるやまがた紬は、優しく温もりのある独特の風合いを持つ。

染織工房では、約3カ月かけて一反のやまがた紬を職人自らの手で織り上げています。基本的に受注生産はしていないため、職人たちが独自の発想のもと、ストックしておいた糸同士を色合わせしながら自由にデザインを考えていきます。そうした自由な生産風土が職人たちの創作意欲を刺激し、より深みのある製品づくりへとつながっているのです。

ー なぜ機械織りではなく、手織りにこだわるのですか。

れば着るほど体に馴染む心地良さ、そして職人の手から生まれる手織りならではの優しい温もりを大切にしているからです。織りの作業は、最初から最後まで一人の職人が通しで行います。釘が一切打ち込まれていない昔ながらの木製の織り機を、職人が自分の感覚に合うように微調整しながら、先染めした1480 本の絹のたて糸を糸枠に巻いて織り機に通し、シャトルを使ってよこ糸となる紬糸を織り込んでいきます。
そうして染織したやまがた紬は、「和裁工房」で仕立てられます。職人たちは全員が一級和裁士で、作業は分担せず、反物の裁断から縫製までのすべての工程を一人の職人が担当します。和裁工房の職人は全員が女性です。女性ならではの繊細さを大切にしつつ、一流の職人でなければできない、手と足で生地をピンと張りながら針を通していく「男仕立て」も採用しており、針や糸、コテはもちろん、自分の体も道具にしながら日々仕立ての作業を行っています。同じ紬といえど生地の感触は一つ一つ違うため、培ってきた感覚でその生地ならではの特徴を見極めながら、手作業で縫製を行います。